以下は、2007年3月 季刊『中帰連』40号に掲載された梶村太一郎(かじむら・たいちろう)氏の文章です。
(この文章は無断転載を禁じられていますが、一部転載について許可を得ました。また、補足のためのリンクはこちらで加えました。)
歴史修正主義者が大半を占める安倍政権下の国会で、辻元清美衆議院議員が八日に提出した「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書」に対する、安倍内閣総理大臣による政府答弁書が出されたのは一六日のことだ。彼女が即時それをHPに掲載したところ、AP通信が引用し「この政府公式見解には『政府は発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』とあり、強制売春には証拠がないと主張している」と速報した。オランダのバルケンエンデ首相は一九日、同国の公共ラジオで「わたしがこの報道を知ったのは、この日の閣議の席です。この報道は確かなもので、急いで外務大臣に日本大使に接触するようその場で要請しました。決して無視できないことですから」と述べている。一七日のオランダの主要紙は「日本大使を召喚」との一面の記事で「首相は慰安婦に強制的に売春行為をさせたことを否定する日本政府に立腹している。犠牲者のなかにはオランダ人もいた。この種の発言について過去数週間に何度か説明を求めているのに明確な回答を得ていないので、日本大使の召喚を決定した。首相は『日本政府の最近の方向転換の理由がなんであるのかに非常な関心がある。(新たな否定に)不愉快な驚きを覚えている』と述べた」と伝えた(NRCハンデルスブラット紙。村岡崇光氏の翻訳による)。オランダの首相が激怒するには十分な理由があるのだ。
ところで、中山成彬議員を会長とする自民党の国会議連「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が八日に政府に対して提出した「慰安婦」問題での提言書に、次の言葉がある。
「我々の調査では、民間の業者による本人の意思に反する強制連行はあっても、軍や政府による強制連行という事実はなかった。一件だけ、ジャワ島における『スマラン事件』があったが、これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すものである」
すなわち、彼らですら否定することができない強制連行の証拠がオランダ人「慰安婦」に関してあるのだ。このハーグの王立公文書館に眠っていた史料を初めて手にして訳出した日本人は、他ならぬわたしである。
蘭領東印度バタビア臨時軍法会議の「スマラン事件」で懲役12年となった能崎清次陸軍中将に対する判決文原文(冒頭部分)。「判決、女王の名において!」とある。右上には「スマラン強制売春」との手書きの書き込みが見られる。1949年2月18日。

いきさつはこうだ。一九九二年の春、当時オランダの元捕虜や民間人が起こそうとしていた強制労働補償裁判の準備のために、新美隆弁護士、田中宏教授らがオランダを訪問したのに同行した。九〇年に結成された「対日道義補償請求財団」との協議のなかで、理事長が「強制売春の被害者はわたしたちの仲間にもおり、裁判記録もある」と述べたのだ。当時は韓国人「元慰安婦」の三人が初めて提訴して半年にもならない時期である。聞き逃せない言葉だ。やがて理事長からベルリンのわたしのもとへ、バタビア臨時軍法会議によるBC級戦犯裁判の中の強制売春に関する二件の判決文と公判記録の分厚い書類が届いた(上の写真)。
当時は使用に価する蘭日辞典などもないため、蘭独辞典を脇に解読を試みたのだが、その内容に眠られぬほど興奮したことだけは忘れられない。問題は正確な翻訳の実現だ。一計を案じたわたしは、ドイツ人の友人を通してドイツ語が抜群にできるオランダ人を捜した。ドイツ人女性と結婚してベルリンに在住しているオランダ人をうまく紹介してもらうことができた。自宅に訪ねてみると、なんと彼は若いのにインドネシア領ニューギニア生まれで、母方の祖母がインドネシア人であるという。事情を詳しく話してドイツ語への翻訳を承諾していただいたのだが、その時の彼の言葉も忘れられない。「もしこの話を、わたしの父がここで聴けば、目の前のテーブルの上に飛び乗り、地団駄を踏んで怒り狂うでしょう。それほど日本人を恨んでいます」と言うのだ。オランダに健在である老父も日本軍に長年抑留され、インドネシアの独立で財産を一切失ったひとりなのだ。
とまれ、彼マトーさんのすばらしいドイツ語訳と原文を前に翻訳をすすめ、朝日新聞が第一報をしたのは七月二一日。それを終えて、夏休みを兼ねて直接ハーグの公文書館とアムステルダムの戦争資料館を長期間訪問し、新たに史料提供を受けた。それらを基にして、かなり詳しい報道ができたのは八月末になってからである。その間、オランダ紙も詳しく事実と背景を報道している。同地でも大ニュースとなった。
オランダ政府はこれを契機に、膨大な史料を専門家にゆだね、九四年一月に「日本占領下蘭領東印度におけるオランダ人女性に対する強制売春に関する政府所蔵文書調査報告書」を発表した。いわゆる「慰安婦」問題とは、事実において「日本軍による直接の強制売春でもあった」ことを証明する動かぬ証拠史料である。「スマラン事件」だけでも死刑一名を含む一一名が強制売春罪などで有罪となった。他に同計画を始めた大佐は日本国内の自宅で連合軍の尋問を受け、裁判を逃れるため二日後に寺院の境内で割腹自殺している。彼は「強制の責任を他に押し付ける遺書」を残しており、軍法会議の証拠となっている。(注1)
したがって「発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする政府答弁は、九三年八月の河野談話以前の言い分であっても、朝日新聞の報道と、遅くともオランダ政府報告書発表後は日本政府としては決して採れないはずだ。オランダ政府が、「日本政府は見解を変えた」と判断して釈明を求めるのは、極めて正当な要求である。
にもかかわらず、安倍首相が、いまだにこのような答弁を平気でするのは、前述の「提言」にあるように「スマラン事件」は「これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すもの」とする見解によるからだ。彼が先輩の中山成彬議員ら歴史修正主義者たちによる、絵に描いたような史実の曲解を信じているからに他ならない。
ここでの「直ちに処分された」とは、東京の陸軍省俘虜管理部の小田島大佐が抑留所視察の際、たまたま娘を強制連行された親から事実を知らされ、慰安所閉鎖処置を命令したことを示すが、それだけである。このことは軍が強制連行と強制売春が違法であることを承知しており、「強制連行があった」ことの証拠にはなっても、決して「強制連行がなかったことを示す」ものではない。事実は、陸軍刑法で禁止されている強姦罪などで処罰されるべきであったのに、日本軍による関係者の処分は一切無かったのである。処罰はオランダの軍法会議で行なわれたのであった。
(※スマラン事件では、日本軍は関係者の処罰を一切行なわなかったうえ、犯行を計画実行した能崎清次少尉を中将に昇進させ、敗戦直前には勲一等瑞宝章を授与しています。)
ところで、史実を広義と狭義にわけて否定する手口は、歴史修正主義の常套手段でもある。欧米社会では、いわゆる「ホロコースト否定」派との論争で、これとの闘いの体験を積み重ねており、一切通用しない恥ずべき、特にドイツでは犯罪のレトリックとして排除される。「広義の強制連行はあっても、狭義の官憲による直接の強制連行の資料はない」とする政府答弁書の立場は、九二年のドイツ連邦政府の議会における答弁「ナチスによるユダヤ人虐殺はあっても、証明されている歴史事実であるガス室での大量虐殺は、命令書など証拠が発見されないため無かったなどとするのが狭義の修正主義である」との定義にそのまま当てはまっている。したがって一六日の政府答弁は安倍内閣が歴史修正主義の立場を採ることを閣議決定で表明したことになる。撤回する以外に、国際社会ではいかなる弁明の余地もないことを知るべきである。
(中略)
前述のように、わたしは九二年の夏休み、家族連れでオランダを訪問した。連れ合いと子どもたちは観光と海水浴へ、わたしは公文書館で史料の閲覧の毎日であった。そのころすでにオランダ政府は、オランダ人女性強制売春に関する報告書作成の準備に着手していた。このとき信頼関係ができた政府関係者のひとりから次のようなことを聴いた。「『スマラン事件』は氷山の一角で、おそらくヨーロッパ系の女性の被害者で確認できるのは数百人でしょう。しかし、中国系被害者はもっと多く、インドネシア人女性にいたっては膨大な人数です。その史料もありますが、内容がすさまじく、外交的配慮から公表はできません」
こう語る相手の真剣な表情がいま甦ってくる。あれから一五年後の今、安倍政権が政府答弁を撤回しないかぎり、それに応じたオランダ政府の「外交的配慮」の変化もありうると十分推定できる。そうなれば歴史の大きな闇が、また天日下に曝され、ついに「轍鮒を枯魚の市に訪う」ことになるであろう。
(三月二一日脱稿)
(注一)判決は「オランダ女性慰安婦強制事件に関するバタビア臨時軍法会議判決」新美隆解説『季刊戦争責任研究』第三号、九三年冬号。事件の概要については『従軍慰安婦』吉見義明、岩波新書を参照されたし。
(注二)ドイツ政府の見解は『ジャーナリズムと歴史認識』梶村太一郎、凱風社、七八ページを参照。
梶村太一郎(かじむら・たいちろう)
1974年以来、ベルリン在住。ジャーナリスト。
(ここまで)
梶村氏の文章の信憑性が高いことを裏付けるニュース
従軍慰安婦:オランダが釈明求める書簡 意見広告掲載で
(2007年6月29日 毎日新聞 魚拓)
第二次大戦中の従軍慰安婦問題で、オランダ下院のフェルベート議長は28日、日本の国会議員らが、女性を慰安婦として強制的に動員した事実はなかったと反論する意見広告を米紙に掲載したことなどに関し、釈明を求める書簡を河野洋平衆院議長に送付した。下院報道官が共同通信に同日、明らかにした。
日本側の対応次第では、米下院外交委員会が公式謝罪を求める決議を可決したのに続き、オランダでも批判が噴出する可能性がある。日本占領下のインドネシアで慰安婦にされた国民がいるオランダでは、安倍晋三首相の3月の「(動員に)強制性を裏付けるものはなかった」との発言や意見広告を受け、バルケネンデ首相が「あまりにも不適切だ」と不快感を表明している。(ブリュッセル共同)
(ここまで)
■軍による強制連行を裏付ける証拠資料
■最高裁判所が、旧日本軍が連行、監禁、強姦したことを事実認定
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(この文章は無断転載を禁じられていますが、一部転載について許可を得ました。また、補足のためのリンクはこちらで加えました。)
歴史修正主義者が大半を占める安倍政権下の国会で、辻元清美衆議院議員が八日に提出した「安倍首相の『慰安婦』問題への認識に関する質問主意書」に対する、安倍内閣総理大臣による政府答弁書が出されたのは一六日のことだ。彼女が即時それをHPに掲載したところ、AP通信が引用し「この政府公式見解には『政府は発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった』とあり、強制売春には証拠がないと主張している」と速報した。オランダのバルケンエンデ首相は一九日、同国の公共ラジオで「わたしがこの報道を知ったのは、この日の閣議の席です。この報道は確かなもので、急いで外務大臣に日本大使に接触するようその場で要請しました。決して無視できないことですから」と述べている。一七日のオランダの主要紙は「日本大使を召喚」との一面の記事で「首相は慰安婦に強制的に売春行為をさせたことを否定する日本政府に立腹している。犠牲者のなかにはオランダ人もいた。この種の発言について過去数週間に何度か説明を求めているのに明確な回答を得ていないので、日本大使の召喚を決定した。首相は『日本政府の最近の方向転換の理由がなんであるのかに非常な関心がある。(新たな否定に)不愉快な驚きを覚えている』と述べた」と伝えた(NRCハンデルスブラット紙。村岡崇光氏の翻訳による)。オランダの首相が激怒するには十分な理由があるのだ。
ところで、中山成彬議員を会長とする自民党の国会議連「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」が八日に政府に対して提出した「慰安婦」問題での提言書に、次の言葉がある。
「我々の調査では、民間の業者による本人の意思に反する強制連行はあっても、軍や政府による強制連行という事実はなかった。一件だけ、ジャワ島における『スマラン事件』があったが、これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すものである」
すなわち、彼らですら否定することができない強制連行の証拠がオランダ人「慰安婦」に関してあるのだ。このハーグの王立公文書館に眠っていた史料を初めて手にして訳出した日本人は、他ならぬわたしである。
蘭領東印度バタビア臨時軍法会議の「スマラン事件」で懲役12年となった能崎清次陸軍中将に対する判決文原文(冒頭部分)。「判決、女王の名において!」とある。右上には「スマラン強制売春」との手書きの書き込みが見られる。1949年2月18日。

いきさつはこうだ。一九九二年の春、当時オランダの元捕虜や民間人が起こそうとしていた強制労働補償裁判の準備のために、新美隆弁護士、田中宏教授らがオランダを訪問したのに同行した。九〇年に結成された「対日道義補償請求財団」との協議のなかで、理事長が「強制売春の被害者はわたしたちの仲間にもおり、裁判記録もある」と述べたのだ。当時は韓国人「元慰安婦」の三人が初めて提訴して半年にもならない時期である。聞き逃せない言葉だ。やがて理事長からベルリンのわたしのもとへ、バタビア臨時軍法会議によるBC級戦犯裁判の中の強制売春に関する二件の判決文と公判記録の分厚い書類が届いた(上の写真)。
当時は使用に価する蘭日辞典などもないため、蘭独辞典を脇に解読を試みたのだが、その内容に眠られぬほど興奮したことだけは忘れられない。問題は正確な翻訳の実現だ。一計を案じたわたしは、ドイツ人の友人を通してドイツ語が抜群にできるオランダ人を捜した。ドイツ人女性と結婚してベルリンに在住しているオランダ人をうまく紹介してもらうことができた。自宅に訪ねてみると、なんと彼は若いのにインドネシア領ニューギニア生まれで、母方の祖母がインドネシア人であるという。事情を詳しく話してドイツ語への翻訳を承諾していただいたのだが、その時の彼の言葉も忘れられない。「もしこの話を、わたしの父がここで聴けば、目の前のテーブルの上に飛び乗り、地団駄を踏んで怒り狂うでしょう。それほど日本人を恨んでいます」と言うのだ。オランダに健在である老父も日本軍に長年抑留され、インドネシアの独立で財産を一切失ったひとりなのだ。
とまれ、彼マトーさんのすばらしいドイツ語訳と原文を前に翻訳をすすめ、朝日新聞が第一報をしたのは七月二一日。それを終えて、夏休みを兼ねて直接ハーグの公文書館とアムステルダムの戦争資料館を長期間訪問し、新たに史料提供を受けた。それらを基にして、かなり詳しい報道ができたのは八月末になってからである。その間、オランダ紙も詳しく事実と背景を報道している。同地でも大ニュースとなった。
オランダ政府はこれを契機に、膨大な史料を専門家にゆだね、九四年一月に「日本占領下蘭領東印度におけるオランダ人女性に対する強制売春に関する政府所蔵文書調査報告書」を発表した。いわゆる「慰安婦」問題とは、事実において「日本軍による直接の強制売春でもあった」ことを証明する動かぬ証拠史料である。「スマラン事件」だけでも死刑一名を含む一一名が強制売春罪などで有罪となった。他に同計画を始めた大佐は日本国内の自宅で連合軍の尋問を受け、裁判を逃れるため二日後に寺院の境内で割腹自殺している。彼は「強制の責任を他に押し付ける遺書」を残しており、軍法会議の証拠となっている。(注1)
したがって「発見した資料の中には、軍や官憲によるいわゆる強制連行を直接示すような記述も見当たらなかった」とする政府答弁は、九三年八月の河野談話以前の言い分であっても、朝日新聞の報道と、遅くともオランダ政府報告書発表後は日本政府としては決して採れないはずだ。オランダ政府が、「日本政府は見解を変えた」と判断して釈明を求めるのは、極めて正当な要求である。
にもかかわらず、安倍首相が、いまだにこのような答弁を平気でするのは、前述の「提言」にあるように「スマラン事件」は「これは直ちに処分されており、むしろ軍による強制連行がなかったことを示すもの」とする見解によるからだ。彼が先輩の中山成彬議員ら歴史修正主義者たちによる、絵に描いたような史実の曲解を信じているからに他ならない。
ここでの「直ちに処分された」とは、東京の陸軍省俘虜管理部の小田島大佐が抑留所視察の際、たまたま娘を強制連行された親から事実を知らされ、慰安所閉鎖処置を命令したことを示すが、それだけである。このことは軍が強制連行と強制売春が違法であることを承知しており、「強制連行があった」ことの証拠にはなっても、決して「強制連行がなかったことを示す」ものではない。事実は、陸軍刑法で禁止されている強姦罪などで処罰されるべきであったのに、日本軍による関係者の処分は一切無かったのである。処罰はオランダの軍法会議で行なわれたのであった。
(※スマラン事件では、日本軍は関係者の処罰を一切行なわなかったうえ、犯行を計画実行した能崎清次少尉を中将に昇進させ、敗戦直前には勲一等瑞宝章を授与しています。)
ところで、史実を広義と狭義にわけて否定する手口は、歴史修正主義の常套手段でもある。欧米社会では、いわゆる「ホロコースト否定」派との論争で、これとの闘いの体験を積み重ねており、一切通用しない恥ずべき、特にドイツでは犯罪のレトリックとして排除される。「広義の強制連行はあっても、狭義の官憲による直接の強制連行の資料はない」とする政府答弁書の立場は、九二年のドイツ連邦政府の議会における答弁「ナチスによるユダヤ人虐殺はあっても、証明されている歴史事実であるガス室での大量虐殺は、命令書など証拠が発見されないため無かったなどとするのが狭義の修正主義である」との定義にそのまま当てはまっている。したがって一六日の政府答弁は安倍内閣が歴史修正主義の立場を採ることを閣議決定で表明したことになる。撤回する以外に、国際社会ではいかなる弁明の余地もないことを知るべきである。
(中略)
前述のように、わたしは九二年の夏休み、家族連れでオランダを訪問した。連れ合いと子どもたちは観光と海水浴へ、わたしは公文書館で史料の閲覧の毎日であった。そのころすでにオランダ政府は、オランダ人女性強制売春に関する報告書作成の準備に着手していた。このとき信頼関係ができた政府関係者のひとりから次のようなことを聴いた。「『スマラン事件』は氷山の一角で、おそらくヨーロッパ系の女性の被害者で確認できるのは数百人でしょう。しかし、中国系被害者はもっと多く、インドネシア人女性にいたっては膨大な人数です。その史料もありますが、内容がすさまじく、外交的配慮から公表はできません」
こう語る相手の真剣な表情がいま甦ってくる。あれから一五年後の今、安倍政権が政府答弁を撤回しないかぎり、それに応じたオランダ政府の「外交的配慮」の変化もありうると十分推定できる。そうなれば歴史の大きな闇が、また天日下に曝され、ついに「轍鮒を枯魚の市に訪う」ことになるであろう。
(三月二一日脱稿)
(注一)判決は「オランダ女性慰安婦強制事件に関するバタビア臨時軍法会議判決」新美隆解説『季刊戦争責任研究』第三号、九三年冬号。事件の概要については『従軍慰安婦』吉見義明、岩波新書を参照されたし。
(注二)ドイツ政府の見解は『ジャーナリズムと歴史認識』梶村太一郎、凱風社、七八ページを参照。
梶村太一郎(かじむら・たいちろう)
1974年以来、ベルリン在住。ジャーナリスト。
(ここまで)
梶村氏の文章の信憑性が高いことを裏付けるニュース
従軍慰安婦:オランダが釈明求める書簡 意見広告掲載で
(2007年6月29日 毎日新聞 魚拓)
第二次大戦中の従軍慰安婦問題で、オランダ下院のフェルベート議長は28日、日本の国会議員らが、女性を慰安婦として強制的に動員した事実はなかったと反論する意見広告を米紙に掲載したことなどに関し、釈明を求める書簡を河野洋平衆院議長に送付した。下院報道官が共同通信に同日、明らかにした。
日本側の対応次第では、米下院外交委員会が公式謝罪を求める決議を可決したのに続き、オランダでも批判が噴出する可能性がある。日本占領下のインドネシアで慰安婦にされた国民がいるオランダでは、安倍晋三首相の3月の「(動員に)強制性を裏付けるものはなかった」との発言や意見広告を受け、バルケネンデ首相が「あまりにも不適切だ」と不快感を表明している。(ブリュッセル共同)
(ここまで)
■軍による強制連行を裏付ける証拠資料
■最高裁判所が、旧日本軍が連行、監禁、強姦したことを事実認定
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Comment

>(※スマラン事件では、日本軍は関係者の処罰を一切行なわなかったうえ、犯行を計画実行した能崎清次少尉を中将に昇進させ、敗戦直前には勲一等瑞宝章を授与しています。)
謹慎処分がくだったはずだが・・・
謹慎処分がくだったはずだが・・・
kmura | URL | 2007/07/24/Tue 17:25 [EDIT]
kmura さんへ
>謹慎処分がくだったはずだが・・・
ソースお願いしまっす。
ちなみに、当時の陸軍刑法では「戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ婦女ヲ強姦シタル者ハ無期又ハ 一年以上ノ懲役ニ処ス」とありますよ。
>謹慎処分がくだったはずだが・・・
ソースお願いしまっす。
ちなみに、当時の陸軍刑法では「戦地又ハ帝国軍ノ占領地ニ於テ婦女ヲ強姦シタル者ハ無期又ハ 一年以上ノ懲役ニ処ス」とありますよ。
精力的な調査ご苦労様っす。
もう、膿みを出し切っちゃう
> 外交的配慮から公表はできません」
> それに応じたオランダ政府の「外交的配慮」の変化
> そうなれば歴史の大きな闇が、また天日下に曝され、
のが一番いいでしょう。誰のためにも。
公表しちゃえオランダ政府。
(日本せーふが恫喝したら私がPhilips製品買い占めてあげます。あとハイネケン。)
もう、膿みを出し切っちゃう
> 外交的配慮から公表はできません」
> それに応じたオランダ政府の「外交的配慮」の変化
> そうなれば歴史の大きな闇が、また天日下に曝され、
のが一番いいでしょう。誰のためにも。
公表しちゃえオランダ政府。
(日本せーふが恫喝したら私がPhilips製品買い占めてあげます。あとハイネケン。)
エクレア長介 | URL | 2007/07/24/Tue 20:54 [EDIT]
エクレア長介さん、どもども。
この記事、すでに既述されていたようですが、最近知ったんですよね。自分(^^;
日本の公文書は国益を損ねるという理由で公開されてないものが多くあるようですね。それと、連合国側のオランダやイギリスなどの公文書は、93年までの政府調査の対象外ですからねぇ。気になるところですねぇ。
この記事、すでに既述されていたようですが、最近知ったんですよね。自分(^^;
日本の公文書は国益を損ねるという理由で公開されてないものが多くあるようですね。それと、連合国側のオランダやイギリスなどの公文書は、93年までの政府調査の対象外ですからねぇ。気になるところですねぇ。
dmpxさんはじめまして。
“自爆史観”とは彼らにピッタリなネーミングですね (^^
>大陸の「陰謀」を見るのは御自由ですが.
そうですね。ただ、「陰謀論」という妄想上の奇妙な飛躍を押しつけないでもらいたいですね。
“自爆史観”とは彼らにピッタリなネーミングですね (^^
>大陸の「陰謀」を見るのは御自由ですが.
そうですね。ただ、「陰謀論」という妄想上の奇妙な飛躍を押しつけないでもらいたいですね。
林 博史さんの講演会のお知らせ
度々、すみません
日時●8月4日(土) 午後1時30分 ~ 5時
会場●杉並区立産業商工会館 1階 展示室 (℡・3393‐1501)
(杉並区阿佐谷南3‐2‐19)
JR阿佐ヶ谷駅南口 徒歩5分
基調講演●「沖縄戦『集団自決』教科書検定&『つくる会』」
☆林 博史さん(関東学院大学教授・現代史)
※林 博史さんのプロフィル
http://www32.ocn.ne.jp/~modernh/
報告&意見交換★中学校統合問題 ・SATってなんだ?!
「つくる会」分裂・師範館などについて保護者、
市民、教員から報告予定
参加費・500円
主催:杉並の教育を考えるみんなの会 (℡・090-1859-6656)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
杉並の教育を考えるみんなの会
sugimina@jcom.home.ne.jp
ひらかれた歴史教育の会編「『新しい歴史教科書』の
<正しい>読み方」(青木書店)好評発売中!
http://www.aokishoten.co.jp/contents/list/index.html
出版社サイトから購入もできます↑
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ほっと一息 | URL | 2007/07/27/Fri 16:43 [EDIT]
すいませんが、インドネシア独立で財産を失ったオランダ人に同情はいらないと思います。なぜなら彼らはインドネシア人を搾取していた人々ですから。いまだにインドネシアに謝罪すらしていないのがオランダです。ただ慰安婦の方にはご同情を申し上げます。
| URL | 2007/08/03/Fri 16:31 [EDIT]
いまさらですが、
紹介されていないようなので。
日刊ベリタ : 記事 : 私の見た朝鮮人従軍慰安婦の現場 中谷孝(元日本軍特務機関員)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200706281015204
日刊ベリタ : 記事 : 私の見た朝鮮人従軍慰安婦の現場 中谷孝(元日本軍特務機関員)
http://www.nikkanberita.com/read.cgi?id=200706281015204
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エクソダス2005《脱米救国》国民運動 2007/07/24/Tue 19:49
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